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一般社団法人日本人材育成協会

JAPAN PERSONNEL DEVELOPMENT ASSOCIATION

80時間超す残業続き脳梗塞、退職…なぜ?労災認定されなかった高齢労働者!(令和4年5月26日.西日本新聞)

高齢の働き手が過度な労働で脳や心臓を患ったとして労災補償を求めても、認められにくい傾向が続いています。60歳以上の労災認定率は近年、若年層より低い20%前後で推移。時間外労働などの重い負荷があったかどうか、年齢に関係なく同じ基準で審査していることが壁になっているとの指摘もあります。高齢労働者が増える「人生100年時代」を迎え、働くシニア世代の安全網はこのままでいいのか、問われています。

●福岡市のある女性は倒れる前の半年間、1日4時間の勤務以外に月平均80時間を超す残業をしていました。それでも不支給となったのは、国の労災認定基準が時間外労働を「1日8時間を超えて働いた分」としているためでした。審査で、女性の残業は1日の総労働時間から8時間を差し引いた分しか認められませんでした。納得できず、2度にわたり不服を申し立てましたが、いずれも棄却。2019年に起こした会社への損害賠償請求訴訟も、倒れる前の平均労働時間が1日8時間を下回っているとして棄却されました。2020年には国を相手取り、労災認定を求めて提訴し、現在も係争中です。

●厚生労働省は2021年9月、脳・心臓疾患の労災認定基準を見直しました。認定基準では、時間外労働が発症前1カ月に100時間、または同2~6カ月間で月平均80時間の「過労死ライン」を超えていると、労災と認められやすくなります。改定により、時間外労働が過労死ラインに達しなくても近い水準にあり、不規則勤務などの負荷があれば認定できるようになりました。専門家でつくる検討会の提言を受けた形です。ところが、1日8時間を超えて働いた分を時間外労働とする点など、全ての世代の働き手に同じ基準を当てはめる運用は見直されませんでした。検討会でも高齢労働者向けに特別な条件を設ける議論はなかったといいます。

●これまでも労災の審査では、労働時間以外に、申請者の負荷が似たような職種や年齢の人にとっても重いかどうかを考慮してきました。ただ、過労死ライン未満の残業時間で脳・心臓疾患の労災と認定されたケースは2020年度、全体の約1割にとどまり、個別の負荷よりも労働時間が重視される傾向が続いています。厚労省によりますと、脳・心臓疾患に関する60歳以上の労災申請は2020年度、261件。労災に該当するか決定した208件のうち、支給となったのは44件というのが現状です。
2022年05月26日 09:39