フリーランス、労働政策議論の枠外(令和5年3月9日.読売新聞)
日本の労働政策は、労働者の保護を強化する方向で進んできましたが、フリーランスはその枠外に置かれてきました。労働時間や休日などを定めた労働基準法が成立したのは戦後まもない1947年です。戦前の劣悪な労働環境を踏まえ、復興の担い手として労働者を手厚く保護する狙いがありました。企業などから指揮命令を受けないフリーランスは企業と同列の事業者と扱われました。その後、労基法は改正を重ね、法定労働時間が短縮されるなど労働者の保護が進みました。転機となったのは、1985年に制定された労働者派遣法です。●経済成長とともに職業の細分化が進み、企業が専門人材を求めるようになりました。働く側にも一つの会社に縛られない意識が広がり、同法で例外的に直接雇用でない働き方が認められました。当初は専門性が高い13業務に限られていましたが、1999年に原則自由化となり、2004年にはそれまで禁止されていた製造業にも解禁されました。この結果、雇用者に占める非正規の割合は1984年は15%でしたが、2004年には31%と倍増しました。
●派遣社員も労働者で、労基法などで保護されます。しかし、1日単位で派遣される「日雇い派遣」など不安定な働き方が広がり、2008年のリーマン・ショックで「派遣切り」や「雇い止め」が社会問題となりました。その後、非正規雇用の制度改善が進み、2012年に日雇い派遣は原則禁止になりました。2018年には「同一労働同一賃金」などを柱とする働き方改革関連法が成立しました。職務内容などが同じなら、正社員や派遣社員、パートなど雇用形態の違いで賃金に差をつけることが禁じられました。雇用者に占める非正規の割合は2019年の38%をピークにその後減少傾向にあります。
●一方、フリーランスは労働法令の枠外に置かれたままです。長時間労働や休日の規定がありません。企業は1日単位での仕事の発注も可能です。雇用保険料や健康保険料を負担する必要もありません。社員の長時間労働の解消が進み、非正規のコストが上昇する中、人手不足に悩む業界でフリーランスへの業務委託が広がり、社員との雇用契約を業務委託契約に切り替えるケースもあります。また、ITの発達で、UberEatsなど、単発短時間の仕事をする「ギグワーカー」という働き方も登場しました。フリーランスと労働者との垣根があいまいになってきています。
2023年03月28日 09:59