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一般社団法人日本人材育成協会

JAPAN PERSONNEL DEVELOPMENT ASSOCIATION

勤務短く申告していた職員自殺、県に6800万円賠償命令…奈良地裁「長時間労働が原因」!(令和4年6月2日.讀賣新聞)

うつ病を発症して自殺した奈良県職員(当時35歳)の両親が、長時間労働による過労が原因だとして県に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、奈良地裁は令和4年5月31日、県に計約6800万円の支払いを命じました。寺本佳子裁判長は長時間労働と自殺の因果関係を認め、「自殺を予見できたのに、勤務を軽減するための実効的な措置を講じなかった」と県の責任を指摘しました。

●判決によりますと、県教育委員会で勤務していた西田 幹つよし さんは2015年春にうつ病を発症。翌年春に砂防・災害対策課に異動したが、2017年5月21日に自殺しました。地方公務員災害補償基金県支部は2019年5月、西田さんの自殺は「長時間労働が原因」として、民間企業の労災にあたる公務災害に認定しました。寺本裁判長は判決で、西田さんの時間外労働について、うつ病発症直前の1か月間で154時間、自殺前の半年間の月平均は70時間以上に及んだと認定しました。

●県は当時、職員証を読み込ませて出勤時刻と退勤時刻を記録する「出退勤システム」ではなく、自己申告のみで職員の勤務時間を管理しており、西田さんは短く申告していました。寺本裁判長は「同僚の証言などから在庁時間は私的行為にふけることなく、職務に従事していた」と指摘し、システムで記録された時間が勤務時間にあたるとしました。その上で「長時間労働が常態化し、業務は過重と認められ、うつ病の発症や自殺と因果関係がある」と判断。2016年12月に産業医から同課の上司に対し、長時間労働にならないよう対策を求める意見が伝えられていたことを踏まえ、「心身の健康が危ぶまれる状態を認識しており、自殺を予見できた」と結論づけました。荒井正吾知事は「判決内容を十分精査した上で、今後の対応を検討したい」とコメントしました。

●厚生労働省は2017年に自己申告で生じる長時間労働の防止などを目指し、指針を策定しました。これを受け、総務省は自治体にタイムカードやパソコンの使用時間など客観的な記録で職員の勤務時間を把握するよう推奨。しかし、同省の2020年度の調査では全自治体の36・7%が自己申告のみで管理しており、客観的な把握は十分に進んでいないのが現状です。両親の代理人の松丸正弁護士は「職員の健康管理への非常識を正す判決だ。奈良だけの問題ではなく、地方公務員は民間よりも労働時間が適正に把握されていない。正確な労働時間の把握が、こうした事態を防ぐことになる」と話しています。
2022年06月02日 09:09