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一般社団法人日本人材育成協会

JAPAN PERSONNEL DEVELOPMENT ASSOCIATION

駆け込んだ労基署で「生きていて労災図々しい」不支給取り消し求め裁判!(令和2年4月13日.神戸新聞)

労働基準監督署は労働者の駆け込み寺と思っていたのに-。香川県高松市に住む寳田(たからだ)都子さん(67)が不信感を募らせています。看護師だった寳田さんは、長時間労働とパワーハラスメントにより精神疾患を発症したとして労災補償を求めましたが、高松労働基準監督署は「不支給」を決定。寳田さんは取り消しを求めて高松地裁で裁判を起こしています。

●寳田さんは、精神的な不調を抱えながら、2013年秋に高松労基署に精神障害の労働災害として申請。手続きの間、事務官から「生きていて労災申請するの。図々しい」と小声で言われ、大きなショックを受けたといいます。裁判の中でも、この件が注目されましたが、国側は「そうした事実はない」と全面的に否定しました。寳田さんのノートには、走り書きで「小声で生きていて申請するつもりか。ずー、ずー(ずうずうしい)」「あなた、おたく 生存している 生きているやん」といった記述が残ります。寳田さんは「体調不良の中、事務官の聞き取りはつらかった。いい歳をして泣くなとか、手をかけさせるなとか言われ怖かった。逆らってはいけないと思いました」と振り返りました。裁判が始まると、この事務官と顔を合わせるようになり、寳田さんの体調は悪化。毎回、顏を見ないようにし、薬の服用も多めにしたといいます。それでも近くに座ることがあり、体調不良から倒れ込んだことがありました。「今でも背格好が似た人を見ると怖くなる」と話します。

●「…図々しい」の発言があったのかどうか。労基署側と寳田さん側の言い分が食い違います。労基署の担当者と労災申請者との間で、こうしたことが起こりうるのだろうか。労働行政の現場をよく知る厚生労働省関係者を取材しました。関係者は「図々しい」という言葉はともかく、事務官の対応は適切ではなかったのではと推測します。精神疾患の労災請求は年々、増加。2018年度の申請は1820件と、10年前より684件増えている一方で、労基署の窓口担当者は精神疾患の人への対応について専門的な教育を受けていないといいます。精神疾患の労災請求を受け付けると、膨大な時間がかかります。本人の聞き取り、パワハラがあれば加害者とされる人からの聞き取り、同僚、担当医の証言も必要。「非常にボリュームのある作業。できればやりたくないと考える人も少なくない」と打ち明けます。地方労働行政職員の人員減も背景の一つと考えられます。全労働省労働組合の「労働行政の現状」によりますと、地方労働行政職員の定員は右肩下がりで、2000年度は約2万3500人だったのに、15年度は約2万1千人。政府が進める働き方改革の中で、企業を指導する労働基準監督官は増加しているため、労災などを取り扱う窓口が手薄になっている可能性があります。

●寳田さんの労災申請は労基署に不支給決定され、審査請求、再審査請求でも退けられ、2017年1月、高松地裁に提訴。職場のタイムカードなどでは労働時間の実情が測れないため、カレンダーに記されていた帰宅時間を基に労働時間を算出しました。すると、精神疾患の発症前1カ月目で約170時間の時間外労働が浮かび上がり、発症前2か月目119時間、3カ月目119時間、4か月目154時間となりました。精神障害を発症してから約7年。労基署への請求、審査請求、再審査請求、提訴と続けてきた理由を寳田さんに尋ねると、「失った誇りを取り戻したい。事業者も行政も正すべきところは正してほしい。私と同じように、労基署の対応に苦しんだ人もいるのでは」と訴えます。寳田さん側が主張するカレンダーで算出した残業時間が裁判所に認められるか。労基署の判断は妥当だったのか。近く高松地裁で判決が言い渡されます。
2020年04月13日 09:47