日本の病院の32%が、厚生労働省が進める「医師の働き方改革」では医師の労働環境は改善しないと回答しました。その理由で最も多かったのは「勤務医不足が解消されないから」でした。日本病院会の調査で明らかになったもので、千里リハビリテーション病院(大阪府)院長の塩谷泰一氏が日本病院学会(8月1~2日、札幌市)で報告しました。塩谷氏は、働き方改革を実現するためには「医療の縮小(量の縮減)」か「勤務医の増員」しかなく、これが実行できない病院には「再編・統廃合の道しか残されていない」との見方を示しました。調査名は「勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査」で、日本病院会の医療政策委員会が実施しました。期間は、厚生労働省の医師の働き方改革に関する検討会の議論が進んでいた2018年10月12日から12月28日。対象は日本病院会の会員の2478病院で、413病院から回答がありました(回答率16.7%)。開設主体別では、国が27施設、地方自治体が116施設、公的が90施設、医療法人が125施設、その他が55施設でした。同様の調査は2013年、2015年に次ぐ3回目となります。調査内容は、勤務医不足・地域偏在、労働時間・労働賃金、労働基準法遵守、医師の働き方改革の4つの柱からなります。今回は、その一部の結果が公表されました。
●労働時間・労働賃金に関する質問では、以下の点が明らかになりました。宿日直については、「宿直は週1回、日直は月1回を限度」とする労働基準局長通達を遵守できている病院は63%でした。しかし、遵守できていない病院も38%と多い結果でした(回答392病院)。また、労働基準監督署から宿日直許可を受けている病院は49%と半数に達せず、受けていない病院が26%も存在しました(回答405病院)。「不明」も21%でした。宿日直の業務内容については、32%の病院が「勤務中に救急医療などの通常労働が頻繁に行われている」と回答(回答398病院)。「行われていない」は32%にすぎませんでした。「行われている」と回答した病院の88%は、この状態を「不適切と認識」しており、80%は許可の取り消しになることも認識していました。また、宿日直業務に対する賃金の支払いは、13%が「宿日直手当のみ」、62%が「宿日直手当+実労働時間賃金あるいは定額の割増賃金」であり、「全て時間外勤務として割増賃金」は12%に過ぎませんでした(回答304病院)。時間外勤務が月80時間、年960時間を超える医師については、45%が「いる」と回答(回答377病院)。その内訳をみますと、500床以上の病院が76病院と大病院ほど多い結果でした。なお、こうした長時間労働の医師に対しては、院長あるいは所属長による面談を「行っている」は58%で、「行っていない」の42%と拮抗していました。
●労働基準法遵守の項目では、労働基準局から是正勧告を受けたことがある病院は、調査対象の50%と急増しました(回答399病院)。前回調査(15年)では25%、前々回調査(13年)でも32%でした。是正勧告の対象となった労働基準法違反は、労働時間(32条)違反が47%、割増賃金(37条)違反が40%、時間外労働(36条)違反が25%などだった(回答200病院)。調査では、45%の病院が「日本の医療は労働基準法違反を前提として成り立っていると思う」と回答しました(回答392病院)。「思わない」が21%、「分からない」が34%でした。医師の働き方改革に関連した質問では、63%が医師の時間外勤務削減に向け、医師の働き方を見直していました(回答395病院)。その内容は、「医師事務作業補助員の増員」(65.2%)、「チーム医療の推進」(44.0%)、「宿直明け勤務の制限」(38.0%)などが上位でした(回答250病院、複数回答)。一方で、「連続勤務時間の上限設定」(5.2%)、「勤務時間インターバルの導入」」(3.6%)、「宿直回数の上限設定」(2.8%)、「救急受け入れの制限」(1.6%)などは、少数でした。厚労省が緊急的に取り組むべきとした「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」について、実施できた項目も尋ねています。その結果は、医師の業務の一部を他職種に移管する「タスク・シフティング」が53%と半数を超えていましたが、それ以外は「36協定の自己点検」(46%)、「女性医師等に対する支援」(41%)、「医師の労働時間管理の適正化に向けた取り組み」(36%)、「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」(24%)、「既存の産業保健の仕組みの活用」(13%)と低率でした。また、厚労省が検討している医師の働き方改革の進展で、「労働環境が改善する」と考えている病院は50%にとどまり、「改善しない」が32%でした(回答395病院)。「改善しない」の理由には、「勤務医不足が解消されないから」が81%に上り、「労働基準法を遵守すれば必要な診療体制を維持できない」(66%)、「医療の特殊性が存在するから」(61%)などと続いています(回答128病院)。塩谷氏は、働き方改革には「病院のマネジメント能力の強化・充実が求められる」と強調。改革を実現するためには「提供する医療の『量の縮減』」か、あるいは「勤務医の『数の増員』」しかないとまとめました。そして、これが実行できない病院には「再編・統廃合の道しか残されていない」との見方を示し、発表を締めくくりました。
2019年08月08日 11:56