かかりつけ機能を持つ診療所を受診すると初診料が3割増える――。2018年度に導入されたこの負担増を認識していた患者は厚生労働省の調査で3割にとどまりました。患者への説明のあり方を巡り、健康保険組合連合会など保険者側と日本医師会の間で論争が起きています。
●「診察前に文書で丁寧に説明することを要件化すべきだ」。医療の価格を定めた診療報酬の改定を議論する中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)。30日の総会で健康保険組合連合会の幸野庄司理事はこう提案しました。健保側が問題視しているのは「機能強化加算」。在宅医療の提供や24時間対応など一定水準を満たす診療所はかかりつけ機能があるとして報酬を上乗せする仕組みです。こうした診療所ではどんな患者でも初診料が800円上乗せされ、3割増の3680円となります。患者の支払う窓口負担は3割負担の場合、240円増えて1104円になります。全体の1割にあたる約1万2千の診療所が届け出ています。令和元年10月30日の中医協総会で厚労省は機能強化加算の届け出のある医療機関を受診した患者への調査結果を報告しました。追加負担の有無についてたずねたところ「ある」と回答した患者は32.4%にとどまり、多くの患者が医療費が上乗せされていることを認識していないことをうかがわせました。
●現行では夜間や休日の問い合わせに対応していることなどを診療所内に掲示する要件はありますが、負担については患者に示す必要がありません。かかりつけ医の役割について説明を受けた患者も34.9%にとどまっており、疑念を強めた健保側が負担について事前に説明することを加算の要件とするよう提案することになりました。これに対し、日本医師会の松本吉郎常任理事は「患者一人ひとりに説明するのは時間がかかり、診療を阻害する」と激しく反発しました。かかりつけ医の普及に注力している医師会は、促進策でもある機能強化加算の要件を厳しくすることに断固反対の立場です。厚労省は現時点で見直しに後ろ向きです。機能強化加算は診療体制を手厚くするコストを診療報酬に反映する「体制加算」の一つです。こうした加算は種類が多く、機能強化加算に限って事前説明を要件にするのは難しいとみています。患者が知らない間に医療費が重くなるという点では去年、妊娠と関係ない診療でも妊婦の自己負担が増える「妊婦加算」が批判を浴び、凍結となった経緯もあります。複雑な仕組みが負担増の隠れみのにならないよう関係者は加算の意義を丁寧に説明する必要があります。
2019年11月01日 09:05