廃棄ペットボトルの分別作業などを担当した知的障害者らに対し、福祉事業所が支払う工賃は「役務の提供(労働)の対価」か「単なる給付」か?その判断を問う裁判が名古屋地裁で行われています。作業が「労働」と認められれば、事業所が国に納める消費税が減り、その分、工賃の増額につながる可能性があります。障害者の就労に関し、税法上の扱いを争う訴訟は全国初とみられ、識者も注目しています。
●訴えを起こしたのは、名古屋市で就労継続支援B型事業所などを運営する社会福祉法人「ゆたか福祉会」。消費税法では、事業者が業務を委託したり、人材派遣を受けたりした場合、その相手に支払った対価(労働の対価)は税控除の対象になると定めています。同会は、障害者の作業内容に応じて支払っている工賃がこれに該当すると主張し、2013~17年に納めた計約4960万円の消費税のうち約2500万円の返還を国側に求めています。同会のB型事業所では、通いで働く利用者(障害者)が、ペットボトルのリサイクルや衣服のクリーニングなどの仕事を担当。障害の程度が軽い人が利用するA型事業所とは違い、B型は雇用契約を結べないため、同会は給与形式ではなく、作業量や内容に応じて工賃を渡してきました。
●同会は2019年、「利用者の働きぶりは十分に労働と言え、税控除の対象になるはずだ」と訴え、地元の税務署に納めた消費税の一部返還を請求しました。しかし、工賃は就労訓練を行う福祉サービスに伴ってお金を渡す給付にすぎず、労働の対価とは言えないと退けられ、国税不服審判所でも審査請求が棄却されたため、司法の判断をあおぎたいと提訴しました。訴訟は昨年10月に第1回口頭弁論、12月に第2回弁論が開かれましたが、国側は「前例のない訴訟のため時間がほしい」として態度を明らかにしませんでした。 取材に対し、同会の担当税理士は「工賃は能力などに応じて個々に算定されており、一律に金品を支給するような給付ではない」と主張。名古屋国税局は「コメントを控える」と答えました。三木義一・青山学院大名誉教授(税法)は「B型事業所の工賃は深い議論もないまま給付扱いとされてきましたが、労働の対価と認められれば、障害者の地位向上にもつながります。司法判断に注目したい」と話しています。
2023年06月05日 09:03