政府の「次元の異なる少子化対策」に呼応して、企業の間で従業員の出産・子育てを支援する動きが広がっています。新たな休暇制度の創設や、職場全体での育児の応援など取り組みは多岐にわたります。ただ、配偶者の休暇取得率はなお低調で、職場の理解や協力は欠かせない状況です。
●明治安田生命保険は2024年度から、男性職員を対象に、配偶者の出産予定日の8週間前から取得可能な「パパ産前休暇(仮称)」を導入します。配偶者の出産前に入院準備や、出生児の兄弟・姉妹の世話などに活用してもらうとのことです。期間は1週間程度を想定しています。これまでは出産前に休むには年次有給休暇(有休)を消化していたが、別枠で休暇を取得できます。共働き世帯が増えるなか、出産前から男性が積極的に家事や子育てを担うことで、配偶者の負担を軽減し、出産を前向きに受け止めてもらえるようにしたい考えです。花王は今年から、男女ともに対象とした「有給育児休暇」を新設しました。10日間の育休を必ず取得するよう必須の休暇制度にしたのが特徴です。育児期の短時間勤務制度も取り入れ、会社全体で育児しながら働ける機運作りに取り組んでいます。育児のための休暇や時短勤務を行う当事者だけでなく、職場の同僚に目を向けたのが、三井住友海上火災保険です。今年度から、育休を取得した社員の同僚に一時金を支給する「育休職場応援手当」(同僚1人あたり3000円~10万円)を始めます。同僚にも恩恵を与え、職場全体が育休を快く受け入れる環境を目指します。
●柔軟な働き方は、出生率の向上につなげる効果があるとの見方もあります。伊藤忠商事が勤務時間を朝に移したところ、2021年度の社内出生率が1・97にまで上昇したといいます。育児・子育て支援を目的に進めた働き方改革ではないですが、早朝勤務や午後8時以降の就業の原則禁止などを取り入れたところ、共働きでも子育てがしやすくなる効果があったといいます。出産や子育てに対しては、経済的な負担を懸念する声も根強く、政府は児童手当について所得制限を撤廃する方向で検討に入りました。多子世帯を支援する狙いがあります。企業でも、JR九州が2024年4月から、従業員への出産祝い金を現状の一律1万円から大幅に増額します。第1子は30万円、第2子は40万円、第3子以降は50万円とする方向です。少子化が社会問題という危機感が企業の間にも広がりつつあります。
●男性の育休取得13%。出産、子育ての鍵を握るのが、育児休業制度の有効活用です。厚生労働省によると、育休取得率は2021年度で、女性が85・1%なのに対し、男性は13・97%。男性の取得率は9年連続の上昇ですが、政府の25年目標の30%は遠いものとなっています。取得期間についても、男女差は大きいです。女性の34・0%が「12か月~18か月未満」、30・0%が「10か月~12か月未満」でした。男性の半分以上は2週間未満で、4人に1人は平日にあたる5日すら取得していません。育休制度が未整備の企業も考慮すると、なお育休取得の浸透は十分とは言えない状況にあります。日本総合研究所の藤波匠・上席主任研究員は「育児は女性がするものという意識から脱していない。賃金の向上や、企業の魅力的な子育て支援制度の整備によって、意識を変えていく必要がある」と指摘しています。
2023年04月07日 12:46