長時間の家事や介護労働の末に亡くなった女性の夫(75)が、過労死の認定を求めて7年にわたり国と闘っています。家事労働者は働く人を守る労働基準法の「例外」として、国が女性の労災を認めていません。夫は処分の撤回を求めて提訴し、今月東京地裁で判決が出ます。家事支援サービスの利用が増える中、担い手保護のあり方が問われています。
●当時68歳だった女性は2015年5月の夜、東京・府中の低温サウナ施設で気を失っているのを従業員に発見され、直後に亡くなりました。女性は訪問介護・家事代行サービス会社から寝たきり高齢者のいる家庭に派遣され、その日朝まで1週間泊まり込んでいた。 訴状や同僚の証言などによりますと女性は24時間の拘束で、午前5時前に起床。2時間おきのおむつ替えや家事をこなし、夜も高齢者のベッド脇に布団を敷き休む生活だったとみられます。家族から介護や調理方法を逐一指示されたといいます。過労死と考えた夫は労働基準監督署に労災保険の支給を申請をしましたが、結果は「不支給」。労基法は「家事使用人」には適用しないというのが理由でした。
●「労働者じゃないとしたら奴隷だったのか。人間として扱ってほしい」。納得できない夫は、労基署の上部機関に審査や再審査を申し立てましたが、全て却下され、20年に不支給決定の撤回を求め国を訴えました。なぜ家事を担う人に労基法を適用しないのか。厚生労働省は「労基法の制定時は家庭内に国の規制を及ぼすのが困難と判断したのでは」(担当課)と推測するにとどまります。裁判で原告は、家事労働者が保護されないのは「憲法の『法の下の平等』に反する」として労基法の規定が憲法違反と主張。夫の代理人の指宿昭一弁護士は「かつては長期間自宅内に住み込み、家族同様の扱いだったが今は労働者として家庭に働きに行く。法律で保護しないのは、合理性を持たない」と指摘しました。
●家事労働者への適用を除外する規定は、1993年に労働相(現厚労相)の諮問機関の審議会が「撤廃すべきだ」と答申しましたが、政府は放置したままとなっています。国勢調査によりますと、いわゆる「家政婦(家政夫)」は約1万1000人で97%を女性が占めています。さらに高齢化の加速や働く女性の増加で家事支援のニーズが高まる中、「ネットの仲介サイトを通じ家庭と直接契約する働き手も増えている」(NPO法人POSSEの佐藤学氏)といいます。働き手の女性が、利用者から深刻なセクハラに遭った例もあります。労働問題に詳しい竹信三恵子・和光大名誉教授は「家事労働は外部の監視が届きにくい。労基法で守られない状態を放置すれば被害に遭う人がさらに出てくる」と係争の行方を注視しています。
2022年09月06日 09:31