就職は社会人としての第一歩です。その入り口がコロナ禍で狭められるとしたら、当事者に落ち度はなく、たまりません。第2の「就職氷河期世代」を生むような事態は何としても避けねばなりません。新型コロナウイルスの感染拡大が、来春卒業予定の大学生の就職活動に影を落としています。10月1日時点の内定率は7割に届かず、前年同月を7ポイント下回りました。短大生や専修学校生の内定率も大きく落ち込んでいます。人手不足で超売り手市場だった昨年とは様変わりした印象です。
●学生数が九州最大の福岡大でも、昨年は9割を超えていた11月末時点の内定率が今年は5ポイント以上、下回っているといいます。希望の会社、業界から内定を得られず就職活動を続ける学生は大勢います。卒業目前に就職先が決まるケースはこれまでもあったはずです。学生たちには視野を広げ、自分に合った仕事や会社を粘り強く探してほしい。それにしても今年は異例ずくめの就職活動となりました。春先に予定されていた合同企業説明会が軒並み中止になり、緊急事態宣言で大学は立ち入りも制限されました。大学での就職相談や模擬面接もオンラインとなり、学生の支援が難しくなっています。内定率が下がったのは、コロナ禍による経営悪化で採用数を絞り込んだり、取りやめたりする企業が増えたのが要因です。大手航空会社による採用活動の中止が、その典型例です。事態収束が見通せず、影響の長期化も懸念されます。2022年度についても、全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスが総合職などの採用中止を決め、JTBなど旅行業大手では採用見送りの動きが広がっています。
●航空業界や旅行業界は就職先として人気が高く、志望する学生にとって進路を閉ざされたショックは大きいです。状況次第では、採用の削減・中止が他の業界に広がる恐れもあります。将来への不安を強める学生を見過ごすわけにはいきません。人員削減や構造改革に取り組む企業が新卒採用に慎重になるのはやむを得ない面もあります。一方、中長期的な視野で若者を採用し活躍の場を与えることが重要であることも、経営者は忘れてはいけません。個別企業には最善の選択でも社会全体としては大きな問題となります。バブル崩壊に伴う1990年代半ば以降の就職氷河期を通じて学んだ教訓のはずです。政府は、新卒採用の維持や卒業3年以内は新卒扱いで採用するよう経済団体に要請しました。既卒者にも企業との接点を提供するなど、政府や大学には一段と踏み込んだ対応を求めます。
2020年12月10日 09:19