東京ディズニーランド(千葉県浦安市)で“キャラクター出演者”としてショーやパレードに出演していた女性が、運営会社のオリエンタルランドに対し「安全配慮義務違反」と「パワーハラスメント」を訴えた裁判について、千葉地裁(内野俊夫裁判長)は3月29日、オリエンタルランド社に対して原告女性Bさんに88万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
●原告AさんとBさんはともにディズニーランドでコスチュームを着用する“キャラクター出演者”として勤務していた女性。年間パスポートを自費で購入し、キャラクターの動きを研究するなど熱心なキャストだったAさんは「毎日いきいきとした出演者を演じるため腕や肩を無理な姿勢に保つ必要があった」ことに起因して、2017年1月10日には医師から「胸郭出口症候群」との診断を受けました。これについて船橋労基署は上肢障害の労災を認定。Aさんは、「業務の質・量の改善」「コスチュームの軽量化」「(不測の事態が発生した際の)代替者の確保」などを求めたいとしていましたが、職場復帰の際に、同僚や先輩スタッフらから「どのツラ下げて来てんのか見に行ってやろうぜ」「(オリエンタルランド社に)謝った方がいい。謝るんだよ」といった圧力をかけられていたことが発覚。パワハラについても追加提訴していました。Bさんは13年以上オリエンタルランド社で勤務してきたベテラン。ゲストとのふれあい時に右手薬指を故意に反対側にひねられてねんざを負うという事象が発生し、上司に労災を申し出たところ「エンター(エンターテイナー)なんだからそのくらい我慢しなきゃ。君は心が弱い」と一蹴されたと訴えていました。
●Bさんが特に問題視していたのは「閉鎖された狭い空間でのイジメの発生」。うわさ話や「30歳以上のババァはいらねーんだよ。辞めちまえ」「病気なのか。それなら死んじまえ」 といった悪口がはびこる職場について、「ディズニーランドで働き続けたいからこそ環境を変えなくてはいけないと考えています」「長年耐えてきましたが、我慢するだけでは何も変わりません。パワハラがない、安心して働き続けられる職場になるのが私の夢です」と涙ながらの陳述を行っていました。こうした状況について2018年にAさんはオリエンタルランド側に対し「過重な重量業務で、上肢障害を発症した」ことにより安全配慮義務を欠いたとして約425万円の損害賠償(治療費、2017年1月10日から4月末までの休業損害、慰謝料含む)を請求。Bさんはオリエンタルランド側に対し「従業員に対してのパワハラの防止教育」「パワハラ発生時には調査して内容を把握する義務」「被害者の苦悩を取り除くための措置義務」(安全配慮義務)を怠ったとして約330万円の損害賠償請求を行っていました。
●こうした訴えについてオリエンタルランド側は、「労災が認められたということは認めるが、認定されたからといって安全配慮義務違反があるということではない」との姿勢を被害者弁護士団に示して反論。裁判直前には、あくまでも「裁判に影響するものではなく全ての従業員に求めるものの確認」として、AさんとBさんに対して「あなた方は従業員である以上、会社のプライバシー保護、秘密事項や会社の業務等をする必要がある」という旨の通知書を送付していたことも明らかになり、被害者弁護団からは「このタイミングでの送付は『あなた方の身分に影響しますよ』と言わんばかりで異常です。オリエンタルランド側に誠意を持って臨むという姿勢が見られない」との声が上がっていました。2018年7月の提訴から約3年半、2回の判決延期を経て出された今回の判断。オリエンタルランド社はねとらぼ編集部の取材に対し、「今回の判決において、当社の主張が一部認められなかったことは誠に遺憾であり、判決内容を精査した上で今後の対応を検討して参ります。なお、原告が主張するパワーハラスメントに該当する発言は認められませんでした。ゲストの皆様をはじめとする日頃より当社を支えてくださる全ての皆様に対しご心配おかけしておりますことをお詫び申し上げます」とコメントしました。なお原告Aさんの裁判については、裁判が分離されたため現在も継続中とのことです。
2022年04月04日 09:31